子育てにも共通する犬のしつけ法「ポジティブ・レインフォースメント」とは?
千葉県松戸市の住宅街で9月14日、大型の紀州犬が通行人ら3人に噛み付き、駆けつけた警察官に銃殺されるという事件が発生した。警察官は合計13発の銃弾を撃つなど、愛犬家に衝撃が走った。
しかし、そもそも飼い犬のしつけがちゃんとしていれば、銃殺されることもなかったこの事件。これはある意味、人災とでも言えるのではないか?
オーストラリアの飼い犬はなぜしつけられているのか
オーストラリアも現在は日本に負けず劣らずのペットブームだ。しかし、松戸の事件のように、犬を射殺するような事件は聞いたことがない。
実感として、オーストラリアの犬は日本の飼い犬のように吠えることもほとんどない。そればかりか、とてもフレンドリーな性格の犬が多く、リーシュを付けていなくても危険な感じがほとんどしない(本当はリーシュを付けないといけないが)。
日本の飼い犬はと言えば、室内犬はそうでもないが、外で飼われている中型犬などが、散歩途中に吠えあうというケースをどこでも見かける。
なぜ、日本とオーストラリアではこれほど犬のしつけが違うのか?
これは、オーストラリアなど欧米では80年代のころより、「行動学」に基づいたしつけ方が主流となっていたが、80年代の日本では、室内犬が少なく、犬のしつけも叱る・叩くといったケースも多く、この差が指摘されているところだ。
また、公園の広さや自然の少なさ、都会では自動車の騒音など、日本は人間同様ストレスの溜まりやすい生活環境にあることも一因として考えられるだろう。
では、松戸の事案のような悲しいケースを作らないために、犬をしつけるにはどうすればいいのか?
このことについて調べたところ、育児においても効果のありそうな犬のしつけ法がオーストラリアの文献に見つかった。
その名も「ポジティブ・レインフォースメント法」。
そこで、今回はこの「ポジティブ・レインフォースメント法」について紹介する。
子育てにも効果がありそう!本当の意味で褒めて伸ばすための犬のしつけ法「ポジティブ・レインフォースメント」
一般的に躾(しつけ)に「正解」はないと言われるが、特に小さなお子さんがいる親御さんは、自身のしつけが正しいのかどうか迷うこともよくある。
同時に、犬を飼っている人の多くが「しつけ方」に悩むと言う。
子どもにしろ、仔犬にしろ、「幼い頃の躾」がとても大事だという認識は共通しているようで、「小さいうちに甘やかすとロクなことがない」という意識から、どうしても厳しくなる人が多いようだ。
しかし、犬も人間も、いわゆる「厳しい躾」は、相手を萎縮させてしまう。
萎縮した心のままでは、本当に覚えてもらいたいことを正しく理解することができなくなったり、逆に反感を招いて逆効果になることもある。
そこで、海外でよく知られている犬のしつけ(ドッグ・トレーニング)法「ポジティブ・レインフォースメント」をヒントに、「躾」について考えてみるとよさそうだ。
「罰」と「強化」を分けてしつける
日本でも近年、意識が高まってきている「ドッグ・トレーニング」。
欧米では、ドッグ・トレーニングを義務化している国もあるほど、海外では、犬を飼うと同時にドッグ・トレーニングに通わすことが当たり前となっている。
ドッグ・トレーニング法の中でもよく知られている方法が、「ポジティブ・レインフォースメント」だ。
もともとは心理学用語で、日本語に直すと「正の強化」となる。
これとは逆の「ネガティブ・レインフォースメント:負の強化」という躾の方法もある。
この「ポジティブ・レインフォースメント」だが、日本でもプロのドッグトレーナーの間では、日常的なトレーニング法として知られており、一般にも少しずつ広まっているようだ。
しかし、「正の強化」「負の強化」と聞いて、よく勘違いされているのが、「正の強化=褒めてしつける」「負の強化=叱ってしつける」ということではないということ。
「正の強化」とは、“正しい行いを持続して自ら行えるようにする”という意味合いがある。
例えば、犬のしつけで「犬がリーシュを引っ張ったら、立ち止まり、呼んで戻ってきたら、ご褒美をあげる」というトレーニングはよくある方法だが、これは正確には「ポジティブ・レインフォースメント」ではない。
この例で言えば、「呼んで戻ってきたら、ご褒美をあげる」という部分は、「ポジティブ・レインフォースメント」と言えるが、「犬がリーシュを引っ張ったら、立ち止まる」という部分には「負の強化」が含まれてしまっているということなのだ。
正確に「ポジティブ・レインフォースメント」でしつける場合には、「呼んで戻ってきたら、ご褒美をあげる」ということだけを重ねて訓練する。
こうすることで、犬は呼ばれて戻ってきたら、美味しいものが食べられることだけを反復できる。
そのため、次に呼ばれた時には自発的に戻ってくる可能性が高まる。
この「自発的な行動」が繰り返しできるようにすることが「ポジティブ・レインフォースメント」のコツということなのだ。
つまり、上記の例のように「罰と強化」が混同しないように訓練することが大切というわけだ。
もちろん、しつけという点では、してはいけないことをした時に「罰」が必要な場合もあると考える人も多いことだろう。
しかし、全米獣医学協会や米国動物愛護協会などでは、「罰」や「負」によってしつける方法では、自発性が失われる可能性が高まるため、「嫌悪療法」を排除するようにと、ドッグトレーナーに指導している。
「褒めて伸ばす」の根底的な間違いを正す
これを人間の子どもに当てはめて考えてみる。
すると、よく児童教育の場面で言われる「褒めて伸ばす」の本当の意味が理解できるようになる。
よくあるのは「褒めて伸ばす」というのを「褒めれば伸びる」と勘違いしている点だ。
例えば、晩御飯の後、まだ歯磨きをしていない子供が、うつらうつらとしていたとする。
親は歯磨きをしてから寝るべきだと考えているので、「歯磨きをしないで寝たら、ダメだよ」と叱る。
すると、子供は歯磨きをしにいき、歯磨きをし終えたら「ちゃんと歯磨きできたね」と笑顔で子供を褒める。
この時、親は「やっぱり子供って褒めたらできるようになるんだ」と心の中でつぶやくだろう。
しかし、これは「ポジティブ・レインフォースメント」としては、間違いだ。
なぜなら、子供は「歯磨きをしないで寝たら、ダメだよ」と言われたことに反応しただけだからだ。
「ポジティブ・レインフォースメント」では、「自発的に正しい行いをする時に、ストレスがあってはいけない」という考え方が基本となる。
そのためには、「適切な行動を適切な場面でできる」ように訓練する必要があり、「負」の要素を排除する必要があるのだという。
そのため、親から「歯磨きしなきゃ虫歯になるよ」と言われてから、自分で歯磨きをするようになった子供は、自発的に歯磨きをしていることにはならない。
その場合には、「歯磨きをすることで、とっても歯がきれいになって気持ちいいんだよ」と教わっていることが大切ということだ。
このように、「ポジティブ・レインフォースメント法」でしつけをすると、自発的な子供に育つ可能性が高まるのだという。
「日頃、子供にガミガミ言ってしまう」、「自分の子は怒られないと行動できない」「あれはダメ、これはダメと、思わず言ってしまう」という親御さんは、辛抱強く試してみることが重要なのだ。
怒ってばかりいないで、幸せになろうよ♪
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