オーストラリアの年度末は6月-連邦予算案が家庭のお財布を直撃
日本における会計年度末は3月だが、海外では「年度末の月」が異なる場合が多い。例えば、アメリカは9月で、イギリスは日本と同じ3月、ドイツは12月だ。でもって、オーストラリアは6月となっている。
英語で「Financial year」と呼ばれる会計年度の最後の月には、どこの国でも「セール」が行われる。オーストラリアでは現在、年度末セールの真っ只中とあって、上記の動画のようなTVCMが毎日のようにオンエアされている。
さて、そんな年度末に毎年話題となるのが、連邦政府によって発表される「連邦予算案」だ。
「なんだ政治の話か、興味ないわ」という人もいるかもしれないが、「政府予算案」は、家庭のお財布を直撃する非常に重要な政治ニュースであることを念頭に入れてもらいたい。
特に、今年5月に発表された来年度の予算案は、子どもを持つ家庭の財政を揺るがしかねない、大きな変更があった。
ということで、「日豪プレス」の関連記事を読んでみたが、正直、小難しくて誰に対して書かれている記事なのかがよく分からない。また、そのほかにも、連邦予算案を噛み砕いて解説してくれる記事がなかなか見受けられない。
そこで、今回は、家庭のお財布にとって大きな出来事にフォーカスして、消費者・生活者目線から連邦予算案の重要事項について紹介する。
1.年金の受給開始年齢を引き上げ
永住者はオーストラリアに10年以上居住すると、「Age Pension」という「公的老齢年金」を受給できる。また、年収によって受給額が変わるが25年以上居住していれば、日本に帰国しても最高額まで受給できる資格を得ることができる。
この公的老齢年金は現在のところ受給開始年齢が65歳だが、2023年に67歳、2035年に70歳に引き上げられることになった。
2. 燃料税導入でガソリンがさらに高騰
ここ最近、1リットル160.00セント台(約150円)を上下しているオーストラリアのガソリン価格だが、2014年8月1日から「燃料税」が導入され、ガソリン価格がさらに上がるようだ。燃料税は航空燃料以外のすべての燃料に課税され、自家用車のガソリン代はもちろん、バス運賃や物価の上昇などにも影響が出る模様だ。
3. 一般医が無償から自己負担ありに
日本でも話題となっている「かかりつけ医制度」。オーストラリアでは「GP(一般医)制度」と呼ばれ、医者にかかるには、概ねどのような症状の場合でも、まずはGPで受診することになる。このGPでの診察費は、「Bulk Billing(バルクビリング)」制度といって、要するにメディケア(国民健康保険証に相当)の保持者であれば無償だった。しかし、2015年7月1日から、7ドルの自己負担額が必要となる。また、処方薬の価格も上がるもよう。
4. 家族給付金の資格要件を厳格化
オーストラリアには 「Family tax benefit(=FTB:家族向け給付金)」と言って、子どもを持つ世帯主に対して、最低限の生活を保障するための補助金を給付している。例えば、親が無職で、子どもが1人という3人家族の場合には、夫婦でトータル毎月約1600ドルほどが支給されることになる。
このFTBには2種類あり、子ども1人あたりに給付される児童養育助成金Aと、育児をする親に対して給付される育児助成金Bがあるが、このうち、Bについて、これまでは子どもが18歳になるまで支給されてきた。しかし、2015年7月1日以降は、6歳までとなる。現在、すでに受給している人の場合も最長2年後には、新要件となる。
分かりやすく言えば、2015年7月1日以降、6歳以上の子どもがいる家庭にはFTBの内、Bの支給がなくなるということ。
ただし、シングル・ペアレントの場合は6歳から12歳の間は年間750ドルが支給される。
また、従来は額の差はあれど、年収が15万ドル以下の世帯全員に支給されていたが、15年7月1日からは年収10万ドル以下と引き下げられる。
5. 若者の就職支援金を排除または延期
オーストラリアでは、センターリンクという社会福祉機関が、就職するための援助金を国民および永住者に支給している。これは無職の人が就職するまでの間、生活費などに充当できるように支援するもの。「New start allowance(就職助成金)」や「Youth allowance(若者助成金)」と呼ばれており、これらを25歳未満には支給しない。また、25歳以上~30歳未満の無職求職者に対しては、認定から6ヶ月後から支給されるようになる。
6. 高等教育機関の学費が高騰する可能性
2016年から、大学や公共職業訓練校(TAFE)などの高等教育機関に対して、学費が自由化される。これは要するに、授業料などの学費を各校が独自に決めることが可能になり、必然的に授業料が上がることを意味している。
連邦予算案によって本当に住みにくい国になったのか?
さて、これらを読むと、かなり厳しいイメージに感じる人も多いことだろう。
しかし、実際にこれらの改定によって、本当にオーストラリアは日本人永住者にとって住みにくい国になったのだろうか?
この解答は、日本の福祉状況と比較する必要があるだろう。
例えば年金。日本では、2014年5月に政府与党より、公的年金の支給年齢を75歳まで選択制で広げるという案が出されており、年金の開始年齢はオーストラリアよりも厳しいものになりそうな気配だ。
また、オーストラリアでは、企業の社員であればSuperannuationという積み立て年金(ファンド)を企業が給料の約9%を毎月積み立ててくれる制度があり、2段構えとなっている。こうした点も日本よりメリットが高いと言える。
国民健康保険として医療費を比べてみても、日本の3割負担に対し、オーストラリアはほぼ無償に近いため、大きな病気や怪我でなければ安心して通院できると言える(ただし、歯科などは非常に高いので保険に入る必要がある)。
さらに、日本ほどの高齢化社会ではないが、高齢者向けの福祉制度は概ね、日本のそれよりも高齢者に優しいものとなっているのもオーストラリアの福祉制度の特徴で、オーストラリアは近年ベビーブームであるため、将来的な税収や一般財源も日本ほどの心配はないと考えられる。
このように、オーストラリアでの長期在住、永住を考えるのなら、上記のようなことを比較して、相対的にどちらが自分のライフスタイルに合っているかを考えることをお勧めする。いずれにしても、この連邦予算案やビザ要件の変更といった海外移住に欠かせない情報についてはアンテナを張っておきたいところだ。
Comments are closed, but trackbacks and pingbacks are open.